八国山だより DIGITAL MAGAZINE P.9
湿地への降下
Visual 有機質粘土層を想起させる深く湿った色調。霧の中にぼんやり浮かぶ古代の水辺のシルエット。
水が、すべての始まりである。
八国山の地下7メートルまで掘ると、
青灰色の粘土層に行き当たる。
この粘土は、縄文時代の湧水系統に由来する。
つまり、数千年前、ここに「沼地」があり、
低酸素の環境が有機物の腐食を防いだ。
だからこそ、木製の弓も、朱塗りの杓子も、
漆液を盛った木製容器も、
今日まで奇跡的に保存されたのである。
縄文人は、この湿地を「敵」と見なさなかった。
むしろ、この環境特性を極めて精緻に読み込み、
そこから「漆」という高度な加工技術を編み出した。
低酸素、湿潤——これらは一見すると、
人間にとって「不利な条件」に見える。
だが、技術(テクノロジー)とは何か?
それは「与えられた自然条件を、
いかに有利に翻訳するか」という営みである。
縄文人は、地球の息吹を読む術を持っていた。
- Marginal
- 下宅部遺跡(東村山市)
- 層位:標高20m前後
- 年代:縄文晩期(2500年前)
- 出土遺物:朱塗り弓、漆液容器、杓子
- 保存条件:低酸素・湿潤環境
- 漆工技術:古代東アジアの最高峰